仙台高等裁判所 昭和46年(う)301号 判決 1971年12月21日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人加藤朔郎作成名義の控訴趣意書に記載されてあるとおりであるから、これをここに引用して次のとおり判断する。
控訴趣意第一、法令適用の誤りの主張について、
所論の要旨は原判決認定の原判示第一の信号無視の罪と業務上過失傷害の罪とは観念的競合の関係にあると解すべきであるから、両者を併合罪の関係にあるとした原判決は法令適用の誤りを冒したもので破棄を免かれないというのである。
よつて所論にかんがみ本件記録を精査し原判決を仔細に検討すると、被告人は原判示のとおり無免許で酒に酔つて普通乗用自動車を運転し原判示交差点にさしかかり前方の信号機が赤色の点滅を現示しているのに一時停止することなく左右の安全を確認せずに交差点内に進入したため、折柄黄色点滅の信号に従つて交差道路を進行して来た中村俊朗運転の普通乗用自動車と衝突し同人およびその同乗者老沼泰夫同金入愛子に各傷害を負わせたものであることが認められ、被告人が赤色燈火点滅の信号の意味する一時停止を怠つたことが本件事故発生の一条件であることは事実であるが、右信号の現示するところに従つて一時停止しさえすれば他の注意義務を履践するまでもなく事故発生を回避しえたという事態でなかつたことが明らかで、原判示第一の事実摘示において適切に表現されているとおり一時停止することなく時速約三〇粁のままで左右の安全を確認すべき注意義務を怠つたことが過失となつて本件事故を惹起したものであることが認められるので、所論のように信号無視がそのまま過失の内容となつている場合ということはできず、従つて一個の行為によつて信号無視の罪と業務上過失傷害の罪とに該る観念的競合と評価することはできない。両者の関係を併合罪と解した原判決は正当である。論旨は理由がない。
控訴趣意第二、量刑不当の主張について、
所論にかんがみ諸般の情状を考慮するに、被告人は昭和四三年一一月七日花巻簡易裁判所において無免許運転の罪により罰金一万五〇〇〇円に処せられながら、無免許のままで自ら原判示普通乗用自動車を購入して乗り廻していたもので、加うるに酒に酔つて赤色点滅信号を無視した犯情はまことに悪質というほかなく、被害者中村俊朗の側が黄色点滅信号の現示である以上被告車の如き信号無視車両のあることまで配慮することを要請されるいわれはなく、被害者の落度があるかの如き所論は到底容れ難いところであり、被害者らの負傷の程度が比較的軽微であつたことその他被告人の家庭の事情など所論のすべてを斟酌しても、原判決程度の量刑はまことにやむをえないところでなんら重きに過ぎるものとは認められない。論旨は理由がない。
よつて本件控訴は理由がないので、刑事訴訟法第三九六条に則り棄却すべく、当審訴訟費用は同法第一八一条第一項但書により被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。